従業員などに対する現物給与に係る源泉所得税の取扱い

従業員又は役員(以下「従業員等」といいます。)に対する給与又は役員報酬は、一般的には金銭にて支払われる場合がほとんどだと思います。

しかし、金銭の支払いに限らず、事業者が物品等を無償又は低額で従業員等に販売し、又は住宅などを無償又は低額で従業員等に貸し付けた場合などにおいても、その本来の販売価額又は通常賃料との差額は、事業者が従業員等に対し経済的利益を与えたことになります。

その経済的利益は税法上給与として捉えられ、原則として所得税の課税対象となり、このような経済的利益を、金銭により支払われる給与とは区別して「現物給与」と呼ばれます。

1.現物給与の評価原則

給与を、下記の経済的利益にて受ける場合には、その経済的利益の価額は、それぞれ次の価額により評価することになります。

  • 事業者が通常他に販売する物品        その通常他に販売する販売価額
  • 事業者が通常他に販売する物品以外のもの   通常売買される価額
  • 有価証券                  その支給時の価額
  • 生命保険契約に関する権利          その支給時の解約返戻金等の額
  • 事業者所有の資産を専属的に利用させる場合  通常支払うべき使用料
  • 金銭の貸付けに係る利息           特例基準割合(令和2年は6%)
  • 食事の支給                 その食事の購入金額

 

2.個々の現物給与に対する取扱い

原則として、上記に掲げる経済的利益はすべて給与となるのですが、例外として、実態や慣習を考慮して経済的利益として課税されない場合もあります。その各種取扱いについては以下の通りです。

 

① 通勤用定期券の支給

原則として、1ヶ月当たりの合理的な運賃等の範囲内であれば、従業員等に対する通勤用定期券の支給は、最高150,000円までの部分について、課税されません。

 

② 食事の支給

事業者が従業員等の食事代を支払っている場合には、その食事代は給与課税の対象となります。しかし、その食事代の半分以上を従業員等が負担し、かつ、事業者が負担した残りの金額が月額3,500円以下である場合には、課税されません。

また、上記とは別に、通常の勤務時間外に宿日直又は残業した場合の従業員等に対する食事についても、課税されません。

 

③ 制服等の支給

制服を着用しなければならない従業員等に対して支給又は貸与する制服などは、経済的利益として課税されません。

ただし、制服などの支給に代えて金銭を支給する場合には、課税されます。

 

④ 永年勤続記念品等の支給

永年勤務した従業員等の表彰に当たり、記念として旅行観劇等に招待し、又は記念品を支給した場合で、次のいずれにも該当するものには、課税されません。

  • その額が従業員等の勤務期間等に照らして社会通念上相当と認められること。
  • 表彰が、おおむね10年以上勤務した人を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける人については、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるもの。

 

⑤ 創業記念品等の支給

創業記念、工事完成記念又は合併記念等に際し、従業員等にその記念として支給する記念品で、次のいずれにも該当するものには、課税されません。

  • 支給する記念品が、社会通念上記念品としてふさわしいもので、その価額が10,000円以下のものであること。
  • 創業記念のように一定期間ごとに到来する記念に際して支給する記念品については、創業後おおむね5年以上の期間ごとに支給するものであること。

 

⑥ 商品等の値引販売

従業員等に対し、事業者の取り扱う商品等(有価証券及び食事を除く。)の値引販売をすることによる従業員等が受ける経済的利益については、次のいずれにも該当する場合には、課税されません。

  • 値引販売の価額が、事業者の取得価額以上で、かつ、通常販売価額の70%以上であること。
  • 値引率が、従業員等の全員について一律に、又は役員や従業員の地位、勤続年数当に応じて合理的な範囲内の格差により定められていること。
  • 値引販売する商品等の数量が、一般消費者が家事のために通常消費すると認められる程度のものであること。

 

⑦ 金銭の無利息貸付け等

事業者が、従業員等に対し無利息又は特例基準割合以下(令和2年は1.6%)での利率による貸し付けにより、その従業員等が受けた経済的利益については、それが次のいずれかに該当する場合には、課税されません。

  • 災害、疾病等により臨時的に多額な生活資金を要する事となった従業員等に対し、その資金に充てるために貸し付けた金額で、返済期間が合理的と認められるもの。
  • 事業者における借入金平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、これにより利息を徴収している場合の経済的利益。
  • 上記貸付金以外の貸付金に係る経済的利益で、その年又は事業年度に受ける利益の合計額が5,000円以下のもの。

 

⑧ 用役の提供等

事業者が、福利厚生施設の運営費等を負担することにより、その施設を利用した従業員等が受ける経済的利益などは、その額が著しく多額であると認められる場合を除き、課税されません。

 

⑨ 技術の習得等をさせるために支給する金品

事業者が、自己の業務遂行上の必要に基づき、従業員等にその職務に直接必要な技術もしくは知識を習得させ、又は免許もしくは資格を取得させるための研修会、講習会等の費用は、適正なものに限り、課税されません。

 

⑩ レクリエーション費用の負担

事業者が、従業員等のために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の簡易なレクリエーション行事の費用を負担することにより、その行事に参加した従業員等が受ける経済的利益は、原則として課税されません。

ただし、自己都合により参加しなかった従業員等に対し、その代替として金銭を支給した場合には、参加者及び不参加者の全員にその金銭の額に相当する金額について給与として課税されます。

また、従業員等のレクリエーション旅行については、旅行期間が4泊5日以内であるなど一定の要件を満たしている場合には、その金額が社会通念上高額でないと認められる限り、課税されません。

 

以上のように、従業員等が受ける経済的利益の中でも給与課税の対象とならないものがありますので、積極的に活用することにより従業員の福利厚生を充実させることができます。

一度ご検討頂ければと思います。

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